炎と氷の輪舞曲 文章サンプル
プロローグ
「魔法使いってさー楽しいのかな? よっ……と」
「いきなりどうしたの? アリサちゃん」
夏が終わり、ヒンヤリとした空気が感じられる季節。
陽が高く上がっても暑さを感じさせない快晴の下、アリサ・バニングスと月村すずかは背を合わせて体を伸ばしていた。
「『あの』なのはがのめり込んでるのよ? 気にならない?」
「気になるけど、大変そうかなーって思うなー」
「先生もよく疑わないわよね。あんだけ体調不良になってたら不審に思うでしょ。今だって2人とも『任務』だし。はぁ……」
「……もしかして、寂しい?」
「──ッ! だ、誰もそんな事言ってないでしょうが!」
「わわっ!」
アリサは腕に力を込めてすずかの腕をロックし、勢い良く腰を折った。
だが、すずかは器用にアリサの背中を支点として、バランスを取る。
背中越しにすずかの身体が安定したのを感じたアリサは、諦めてすずかの身体を下ろして解放した。
「もう、アリサちゃん危ないよー!」
「ふん。すずかが変なこと言うからよ」
「変なことじゃないよ。わたしは寂しいって思うよー? なのはちゃん達がいないの」
「……すずかは寂しがり屋だから当たり前よ」
「アリサちゃんは寂しくないの?」
すずかの率直な疑問の言葉を受け、アリサはそっぽを向いた。
「…………いじりがいのあるなのはとフェイトがいないのは退屈かもね…………って、なにニヤニヤしてんのよ?」
「ううん、別に。アリサちゃんは変わらないなーって」
一人で笑っているすずかに対して、アリサはため息を吐いた。
「何それ。意味分かんない……まぁいいわ。それでね──」
「そろそろ準備体操は終わったかなー? 全員集まれー」
アリサが話の続きを口にしようとした矢先、タイミング悪く担任の先生に中断させられた。
「はーい! 行こ? アリサちゃん」
「…………そうね」
差し出されたすずかの手を握り、アリサは駆け出す。
僅かないたずら心と、少しだけの羨望と、ほんの少しの罪悪感……そして非日常の世界を覗いてみたいという好奇心を燻らせながら。
それが、想像もしなかった未来になることも知らずに────。
第一章 友達のために
「お疲れさま。なのはちゃん。フェイトちゃん。はい、マカロン。お姉ちゃんが美味しいからって、たくさんくれたんだ」
「ありがとー。すずかちゃん!」
「ありがとう、すずか」
その日なのは達が帰ってきたのは、すずかたちが帰宅してから一時間が経過した頃だった。
「疲れた身体には、甘いモノが一番だよー。あと、この紅茶が良く合うんだってー」
「美味しい……」
「ほんとだ! すごーい! 本当にすっごく良く合うねー」
「えへへ。二人に気に入ってもらえたみたいで良かったよー」
「あ、あはは……」
なのはは苦笑いをしつつ、伺うような視線をすずかの横に投げている。
投げられた本人はそれを知ってか知らずか、会話に参加することなく風景を見ていた。
「…………」
「え、えっと、アリサちゃんも一緒に……」
「もう食べた」
「そ、そうなんだ。あ、あはは……」
「…………」
アリサのにべにもない態度になのはは乾いた笑いをした後、涙目になってすずかに助けを求めた。
受けたすずかも、なのはの意思を汲み取ったのか、頷いて応える。
すずかの反応になのはは息を整え、再びアリサへと声をかけた。
「アリサちゃん……あの、ごめんね?」
「…………」
「アリサちゃん?」
少しだけ責めるようなすずかの呼びかけに、アリサは観念したようにため息を吐いた。
「はぁ……そんな目で見ないでよ。別に怒ってるわけじゃないんだから」
「え? そうなの?」
「そうよ」
そう言う割には、アリサはあまり楽しそうにしていない。それどころか、腕を組んだまま目を閉じてしまった。
なのは達はきょとんとしてから、互いに視線を交わした。しかし、誰もが首を横に振り、何も分からないという意思を示している。
ひとまず分かっていることは、すずかを怒らせたり、なのはと対立したいわけではないだろうということだけだった。
「えっと、アリサの気持ちも分かるし、私達も悪いところがあったら直すから、その……」
「だから怒ってるとかじゃないんだって。ちょっと考えごとしてたの」
オロオロとしているフェイトの言葉を否定したアリサは、静かに目を開けた。
そして、なのはとフェイトへと交互に視線を送り、意を決したように口を開いた。
「…………あのさ、魔法ってあたしにも使えないの?」
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