My Friend 文章サンプル 







 青く澄んだ、高く広がる空の下で、二対の戦いが繰り広げられていた。
 片方は小さな火花と共に、剣戟が。
 もう片方は、まるで大型花火を打ち上げたかのような爆発音を伴って、盛大に魔法が衝突していた。

「うーん、やっぱり当てさせてくれない。シグナムさんは強いねー」
「そっちも、なのはちゃんとヴィータが息が合ったようにいい動きするもんやから、殲滅できひんやんかー」

 海鳴市で起きた、度重なる事件に深く関わり、解決の一端を担ってきた高町なのは。
 同じく、自分自身に関わる事件から始まり、その後に続く事件を解決へと手伝った八神はやて。

 そんな二人を含めた四人は、時空管理局内にある、実戦用の結界が張られた戦闘ルームの中で、剣と魔法を交えていた。
 なのはとヴィータ、はやてとシグナムのペアに別れて戦い始めた今回の模擬戦は、すでに二十分以上経っている。
 軽口を言い合う二人のはるか頭上では、ヴィータとシグナムが互いの得物で鍔迫り合いをしている。
 二人はそれを確認すると、再び視線を交錯させた。

「このままやってても埒が明かなそうだし、そろそろ終わりにしようか」
「奇遇やね。同じ事思っとった」

 互いに不敵な笑みを浮かべながら、手に持つ杖を勢い良く振るう。
 なのはが手にするレイジングハートは、勢い良くカートリッジをロードして、薬莢を3つ排出した。すると、魔力が高まっていくのが視認できるように、なのはの足元に広がった桃色の光が、一層眩しく煌めいた。
 対するはやても、手にする魔導書を開くと、そこに書かれる言葉を歌い上げるように口にする。やがて、なのはと同じように、足元に輝く白銀の魔法陣が出現し、詠唱を紡いでいくに連れて、段々とその輝きを増していった。
 一呼吸の間を置いて、互いの顔を見やる。
 一瞬の視線での会話。負けない、という意思を込めて、技の名前を口にした。

「ディバイーン……」
「フレース……」

 互いに杖を向け、発射口に桃色に輝く円と、白銀に輝く三角形が浮かび上がり、対立する。
 発射口に収束していく魔力。それらは、飛び出すタイミングを待つように、膨れ上がっていき──。

「「!?」」

 だが、いざ発動の言葉を口にしかけた時、二人は不可解な現象を目の当たりにし、息を呑んだ。
 互いの中間距離に出現した異物。それはまるで陽炎のように揺らぎ、敵として相対している模擬戦相手の顔が分からなくなるほど。その歪みが、段々と大きくなっていく。
 大技を発動しようとする二人を援護するためか、いつの間にか戻ってきていた両相方も、その異変を察知して前衛としての務めを果たすように、なのはとはやてのやや斜め前で構えた。
 だが、そんな二人を嘲笑うかのように、空間は更に波打つように歪み、そして────

「塵芥どもよ。跪けーい!!」

 高らかだが、よく聴き馴染んだ声が、場に響いた。

「「え?」」
「?」
「なんだ?」

 そこに現れたのは、ここ最近で起こった事件に、関わりの深い、見覚えのある姿だった。
 やがてその後ろから、ぞろぞろと見慣れた顔が出てくる。
 闇の欠片事件、そして砕け得ぬ闇事件と称された、二つの事件に大きく関わった人物達。

 先頭に立ち、楽しそうに口元を大きく歪め、偉そうに腕を組み、八神はやてによく似た顔をして佇んでいるのは、紫天の書の主────ロード・ディアーチェ。
 そのディアーチェの姿の背後に隠れ、呆れている四人の様子を窺うのは、砕け得ぬ闇と言われ、前回の事件の原因でもある無限連環プログラム────ユーリ・エーベルヴァイン。
 冷静沈着なフェイトによく似た顔をしているが、性格は真逆の天真爛漫で、顔をニコニコと緩ませているのは、同じくディアーチェの臣下────レヴィ・ザ・スラッシャー。
 レヴィとは正反対に、無表情で殿を努めるのは、前回の事件で解決に多大な貢献をしてくれた、なのはと瓜二つの顔をした、ディアーチェの臣下────シュテル・ザ・デストラクター。

 突然の出来事に、模擬戦をしていた四人は、夢でも見ているのかとしばし呆けていたが、すぐにこれは現実なんだと、思考を働かせた。
 特になのはとはやては、自分と同じ顔をしているのだから見間違えようもなく、闇の書の残滓が起こした事件で、そういう存在がいる事も承知している。
 そして、次に頭を過ぎったのは疑問。他の世界へと旅立った四人がなぜここにいるのかと、なのはは訝しげに声をかけた。

「えっと、本当に……シュテルなの?」
「お久しぶりです。ナノハ」
「わーい! 久々にこの時代に来れたよー! あれ? オリジナルの姿が見えないなー?」
「フェイトちゃんは今ここにおらへんよー」
「えーそうなのー? ブーブー!」

 子供のように口を尖らせて、不満を漏らすレヴィ。
 そんな彼女を隠すように、慌てて前に出たユーリが頭を下げた。

「あの、いきなりお邪魔してすみません!」
「ユーリよ。こんな塵芥どもに謝る必要などないぞ。我がいる、故にそこに我あり、なのだからな!」

 胸を反らし、得意気に言い放つディアーチェだが、隣にいるレヴィが首を捻る。どうやら、イマイチ言いたい事が伝わっていないようだった。

「シュテルン、それってどういう意味?」
「我がいるところに我がいる! それだけだ!」

 指名されたシュテルが口を開こうとした所で、それを遮るように、ディアーチェが得意気に口火を切った。

「おぉ! なんだかよく分からないけど、王様博識ー」
「………………さすがは王です」
「さすがは私のディアーチェ。何でも知っていますね!」
「あ、阿呆か! 誰が貴様のものであるか!! 我は過去から未来、全ての我が我のものであるぞ! むしろお前たちこそ我のものだ!」
「はい、私はユーリのものです!」

 ディアーチェの言葉に心打たれたのか、嬉しそうに腰に抱き付くユーリ。

「はいはい、王様もユーリも、ごちそーさまー」
「えーっと……」

 出現早々なのは達を放置して繰り広げられる、ツッコミをする隙さえ与えない会話のやり取りに、全員が呆気に取られる。

「とりあえず、王様が言いたかった事は、『我思う故に我在り』やろな」
「なのはの偽モン、あれ絶対分かっててスルーしやがったな」
「もーヴィータちゃん、シュテルの事ちゃんと名前で呼んであげないとだめだよー?」
「知るか」

 なのはの言葉に、顔を背けて、吐き捨てるように応えるヴィータ。
 もー、と口を尖らせながら。なのはが不満を露わにしていると、下の方から声が怒声が届いた。

「おい、これは一体どういう事だ! どうしてお前たちがここにいる!? また懲りずに事件を起こすつもりなら、今度こそ逮捕するぞ?」

 なのは達も負けず劣らずと騒ぎ始めていたので、収集がつかなくなると悟ったのか、四人の模擬戦を隣の観戦ルームで観察していたクロノが、颯爽と現れた。
 その手にはデュランダルが握られていて、いつでも戦闘開始できるといった様子である。

「このうつけ者めが! それが王である我に対する口の利き方か? 我をトラブルメーカーか何かのように言うでないわ!」
「そーだそーだー!」

 ディアーチェは心外だと言わんばかりに、眉間にシワを寄せて、クロノに辛辣な言葉をぶつける。
 だが、クロノにとってはどこ吹く風。表情を変える事なく、ハッキリと言ってのけた。

「ハッキリ言おう、お前達はトラブルメーカーだ!」
「言うに事欠いて……我に対して随分な言い様ではないか?
 よし、分かった。貴様等に我の偉大さを思い知らせてやる! 小鴉共よ! 勝負だ!!」
「勝負だー!!」

 ディアーチェが指を突き付けて宣言すると、横にいるレヴィも同じように人差し指をはやてに向けた。







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