春原が俺の家で泊まってから数日後。
 どうやら春原には珍しく空気を読んでいるようで、あの時の話題を出す素振りすら見せなかった。
 こいつの事だから面倒な事に首を突っ込みたくないだけなのだろうが、それが今の俺にはありがたく、春原の好意(?)により平和な日常が壊されること無く続いている。
 無論、あれから親父と顔を合わせていない。

 そうして気が付けば暦が変わり、今日が終わればゴールデンウィーク休みに突入するという日。
 結局大学でも代わり映えしないメンバーで昼食を食べていると、春原が突然意気揚々と口を開いた。

「ねーねー! みんなでバーベキューとかやらない!?」

「なんだ? いきなり」

 薄い肉で作られた生姜焼き定食を食べている手を休めずに、春原の言葉にとりあえず言葉を返してみる。

「なんかさ、大学生っぽいことしたいじゃん?」

「あんた新歓コンパで散々大学生満喫したんじゃないの?」

「それも最後には参加を断られるくらいにな」

 杏も同じように真面目に春原の言葉を受け取る気はないらしく、呆れたような声で答えながら食事を続けている。

「だってタダで飲み食い出来るんだよ!? こんな美味しい機会めったに無いじゃん! そうだ、来年も新入生のフリして行けば……」

「あれだけ毎日行ってればもう顔は覚えられてるんじゃないの? というか、すでに断られてるんだからあんたの顔、割れてるわよ」

 そう。こいつはすでに悪い意味でこの大学の有名人となったのだった。
 このバカはタダで飲み食いできるからという理由でサークルの新歓コンパを渡り歩き、飲んでは迷惑行為を毎日のように繰り返していた。
 新歓コンパ自体、もうすでになくなっているのだが、そのおかげで今では、春原の顔を見て微妙な反応をする人が確実に増えていた。
 あの日……のように近所迷惑な酔っ払いになっていれば嫌でも噂は広まるだろう。
 要するに、春原はこの大学ですでに悪名を轟かせた、ということだった。

「あの、春原さん!」

「ん? なに? 渚ちゃん」

 途端、おとなしく食事をしていた古河が会話に参加してきた。
 どうやら律儀に食べ終わってから会話に参加しているようで、彼女の前には空になったパン袋が置かれていた。

「大学も学校です!」

「え? ……うん、そうだね。学校だね。それがどうかしたの?」

「学生は勉強が本分なので、勉強すれば大学生を満喫出来るんじゃないでしょうか!」

「…………」

 なんという正論。
 古河の圧倒的なまでの正しい言葉に、春原はまるで時間が止まったかのように笑顔で固まっている。
 きっと頭の中で今の言葉を処理しきれないのだろう。
 確かに大学生も学生だからな。古河の言ってる事は正しい。清々しいほどに。
 心のなかで相づちを打ち、定食の肉に手を伸ばす。その向こう側では杏が笑いを堪えていた。

「確かに大学生も学生よね。陽平もちゃんと勉強しなさいよ」

 一頻り笑って満足したように杏は、スパゲティを口に含んだ。
 ミートソースがよく絡んでいて、学食によくある安物のものだと分かっていても、人の食べている姿を見ていると凄く美味しそうに見えるのは何故だろうか。

「バーベキュー……川沿いでやるときっと楽しいの」

 こちらはこちらで、牛丼を食べながらバーベキューに思いを馳せているお方が約一名。
 純粋にバーベキューが楽しみなのか、肉が食べれるからなのか。
 だが、そんなことみの言葉を耳にした春原は、古河の言葉をなかった事にして話を巻き戻した。

「そう! そうだよね!! ほら、ことみちゃんもこう言ってることだしさ。椋ちゃんも誘ってさーいいじゃーん。やろうぜー」

 ここまで食い下がる春原も珍しいが、周りを見る限り満更でもなさそうな雰囲気になっているのを感じた。
 きっと、このままいけばバーベキューをやる事になるだろう。
 俺は川辺で繰り広げられる様子を思い浮かべた。
 確かに、最近鬱屈していたからパーッと騒ぐのも悪くないのかもしれない。
 そんな事を考えていると────

「ん? なんだよ」

「……いや?」

 気のせいか、今春原が俺の事をじっと見つめていたような気がした。
 俺の食べてる生姜焼きが美味そうに見えたのだろうか。もちろん一口も渡す気はないが。

「とにかくさ、大学生になったんだから大学生らしく遊んでみたいんだよ!」

「確かに明日からゴールデンウィークだしね。どっか遊びに行くのは…………ん?」

「どうした?」

 杏が何かを思い出したかのように、眉をひそめて軽く握った手を口元にあて、何やらブツブツ独り言をつぶやき始めた。
 こうなると結論を出すまで周りの言葉が耳に入らないのはよく分かっている。
 とりあえず放置しておくか、と杏から視線を離すのと、杏の景気のいい声が響いたのはほぼ同時だった。

「うん、やろう! バーベキューでもなんでもいいけど、遊びに行きましょう!」

「おっ? さすがは藤林杏! 話が分かるねー!」

「はいはい。日付は……そうね。とりあえず椋に聞いてからでいいかしら? みんなは?」

「わたしは大丈夫です。休みはお店の手伝いくらいしかしてませんから」

「私も何もしてないから大丈夫なの」

「うん、了解。朋也は?」

「ん? 俺もいつでも大丈夫だ」

「良かった。これで全員参加決定ね!」

 俺の返答に大きく頷いた杏は、嬉しそうにスパゲティを口に含む。

「あの……一応聞いてみるけど、僕に確認は……?」

「来なくていいわよ、って言いたいところだけど……あんたが言い出しっぺでしょ?」

「だよねー! 良かった良かった!」


 そんな平和な学食での一時。
 黄金週間の休み中に、バーベキューをやる事と相成った。





第九回 大学生らしいこと




 ゴールデンウィーク一日目。
 俺と春原、杏と椋と古河は昼過ぎに、商店街の一画にあるファミレスで頭を悩ませていた。

「最近何か欲しいものとか呟いてたりしてない?」

「ことみちゃんとそういう話はしないかな」

「そっかー……どうしよう」

 頭を悩ませている問題。
 それはことみへの誕生日プレゼントを何にするか、というものだった。
 杏が遊びに行こうと決断したのも、ことみの誕生祝いをやろうと目論んでの事だったらしい。
 だが、とりあえず祝おうという考えだけが先行して、プレゼントを決めていなかった。
 どうせならみんなで一緒の物を渡そうと考え、呼び出された俺たち。
 そうして集まった面々で、どんなプレゼントにしようかと考え、すでにかれこれ四時間が経過しようとしていた。

「あの、バーベキューをするってなると、どこかの川に行くんですよね?」

「そうねー、なんか思いついた?」

 答えは期待していないのだろうか、杏はストローを咥えてオレンジジュースを啜る。

「いえ、ことみちゃんのプレゼントではないんですが、前にお父さんも川辺でバーベキューをやりたいと言っていた事を思い出して……。あの、もしみなさんが良ければ、誘ってもいいでしょうか?」

「いいんじゃない? ね、朋也」

「ん? あぁ。古河の親父さんなら」

「あ、渚のお父さんて車って出せる? もし、出せるならその方が助かるんだけど……」

「分かりました! 聞いておきます。その日はお店をお休みするって言ってたので、多分大丈夫だと思います!」

 バーベキューの決行日は、ゴールデンウィーク最終日である五月六日。つまり三日後。
 一週間ほど早い誕生日祝いになるが、十三日は残念ながら平日。
 そうなると椋が一緒というわけにはいかなくなるので、ゴールデンウィークの最終日であるこの日に決まった。
 だが決まったのは日にちだけ。
 場所もまだ決まっていないし、どうやっていくかももちろん決まっていない。
 だが、それ以上に決めなければいけない問題。それが何より難しかった。
 みんなが頭を抱える中、我関せずというようにハンバーガーを頬張っていた春原がケチャップを頬につけながら口を開いた。

「楽器とか? 前になんかギターみたいなの見て物欲しそうにしてたじゃん?」

「あーそんな事もあったわね。ヴァイオリンだっけ? あれ値段いくらか知ってる?」

「さー僕音楽得意じゃないし」

 杏は仕方ない、と呆れつつ右手を突き出して、両端の指を折って春原に見せた。
 その姿を見て首を傾げる春原。

「三千円?」

「最低でも三万って言ったら?」

「…………もっとよく考えようか。まだまだ素敵なプレゼント思いつくかもしれないし」

 春原は笑顔のまま、グラスを持ってドリンクバーへと向かった。
 どうでもいいが、半分以上残ってたぞ。何を入れるんだ。

「ほんと、何にしようねー」

 昼ご飯の時間はとうに過ぎ、もうすぐ四時を迎えようとしているこの時間は、子どもが忙しなく動きまわり、その親は席でケーキを味わいながら談笑している。
 杏はそんな光景を横目で見つつ、よしと一言気合を込めると、突如立ち上がって全員を見回した。

「こうしてても埒が明かないわね。何かないか隣町のデパートまで行ってみる?」

「それもいいけど、古河の親にもサプライズ誕生日パーティーやる事を知っておいてもらわないと。古河、言っといてもらえるか? こういう事は早い方がいいだろ」

「あ…………えっと、はい!!」

 不自然に返事をする古河。
 その態度が何かいつもとは違う。明らかに何かを隠しているのが分かる。
 揺するだけ揺すってみよう。

「どうした?」

「いえ、あの……お父さんそういうお祝い事とか好きなので、もし良ければ相談したらどうかと……」

「そうなの? じゃーこの際だから、一緒にプレゼント考えてもらいましょっか! 今から渚の家に行っても大丈夫?」

「はい、大丈夫だと思います」

「お姉ちゃん。私は寮に戻って宿題しなきゃいけないからもう帰らないと……」

「そっか、仕方ないわね。椋、頑張ってね!!」

「残念ですけど、頑張ってください! 椋ちゃん!!」

「うん、ありがとう」

 そんな会話を聞きながら、俺と春原は残りのジュースを啜る。
 最初は煩いだけだったのだが、女子が複数人いると本当に何も喋らなくても話が進んでいくから、最近では楽だと思えるようになってきた。

「それじゃ、行きましょうか」

 俺達は杏の先導するがままに会計を済まして、椋と別れ、一路古河家へと向かった。


      ◇      ◇


 バーベキューの具は何がいいかと談笑しながら歩いていると、いつの間にか古河パンの看板が肉眼で捉えられる位置まできていた。
 古河を先頭にして店に入ると、古河の親父が新聞を広げている。
 どうやらこちらに気付いていないようだ。

「おーう、らっしゃーい。今なら早苗のパンが十割引だよー」

「ただいま帰りました」

 来訪者が自分の娘である事を認識すると、意識を新聞から離した古河の親父は改めてこちらへと視線を向けた。

「おーよくぞ帰った。我が麗しの娘よ」

「お邪魔しまーす」

「おう。双子のねーちゃんか。らっしゃい!」

「ちわーっす」

 次に挨拶かどうか分からないが春原と共に店に入ると、古河の親父は肘をついて俺達にガンを飛ばす。

「おう。通行料早苗のパン三つだ」

「十割引きって言ってたよな。三つ勝手に取ればいいのか?」

「おいおい。馬鹿を言うな。お前の耳はロバの耳か? 男共は定価で払え」

「お父さん! 岡崎さんをいじめたらダメです!」

「チッ。冗談だ」

「そうですか。冗談で良かったです」

「あれ? 今僕が入ってな──」「そんで? 揃いも揃ってどうした? ドロケイでもやるのか? やるなら三分程待ってろ。店閉めるから」

「閉めないでください! ちゃんと営業してください!」

「わーかってる。大丈夫だ。こんな事もあろうかと、家で出来る必殺の遊びがある……その名も『かくれんぼ』。これなら店を閉めなくても──」

「ダメです! それにお客さんが来られたらどうするんですか」

「鬼が接客をする」

「お父さんが店番をしてください!」

「なら、俺はずっと鬼をしていろというのか! よーし、その挑戦状受け取ったぞ渚。俺はいつでも始められる。何せ鬼だからな。そら、早く隠れろー!」

 この光景を俺達は見たことがある。
 所謂デジャヴ。既視感。いや、経験している。そして分かっている。
 この先このアホアホ会話が止まらずに続いていくのを。
 だが、俺は何も言えない。もちろん隣にいる春原も。
 会話を止めるのには結構勇気がいる。でも、その勇気を俺達は持っていない。
 更に言ってしまえば、好きに話してても別に俺達には問題ない。このまま放置して帰るだけだ。
 そう心の中で決め、一歩後ずさった時、勇者が口を開いた。
 
「あの! ちょっといいでしょうか?」

 杏が半ば無理矢理に二人の会話をブッた切る。
 そう、最近よく遊びに来ている杏は、その勇気を持っていたのだ。
 二人は杏の方へと視線を移すと、その片割れがあっと声を漏らした。

「すみません」

 どうやら俺達がここに来た本来の目的を思い出した古河は、バツの悪そうな顔をしながらすぐに古河の親父へと視線を戻す。

「お父さんこの前バーベキューしたいって言ってましたよね?」

「なんだ娘よ。やりたくなったのか? よし、今からやるか。早速道具を用意──」
「お父さん! 今はやりません!」
「なんだ。やらないのか。ならなんだ?」

 古河の父親が再び戯れを始める前に、杏は一歩進み出て古河から説明を引き継いだ。

「今度……というか次の六日なんですけど、みんなでバーベキューをやろうと思っていまして。渚から話を聞いたら家族でバーベキューをやろうと考えていた話を聞いたので、もし良ければ一緒にさせてもらえないかと……」

「……ほう? なるほどな。つまり足と器具を揃えればいいんだな?」

「えっ?」

「なんだ? 違うのか?」

「あ、いえ。その、あはは…………すいません、お世話になっていいでしょうか?」

「おう」

 友人の親に移動の足になってくださいとは、さすがに言えないからな。
 それをいち早く察知されたが、うまい言葉が見つからずに、乾いた笑いを漏らして素直に頭を下げた。
 そんなところだろう。
 それにしても、こっちの言いたいことを察するとは、さすがは腐っても人の親というべきか。
 アホに見えて意外と考えているのかも……しれない?

「食材も俺様が用意してやろう。場所は決まっているのか?」

「それがまだ決めていなくて……」

「そうか。どうせバーベキューするならちょっと海外まで──」

「国内でいいです!」

 すかさず古河がツッコミに回る。

「わーってるよ。ちょっと飛行機で──」

「車でいける範囲でいいです!」

「冗談だ。車か……とりあえず二トントラックをレンタカーで借りて──」

「お父さん!! わたしの話を聞いてください!」

 やっぱりなしだ。
 なんというか、ダメダメだ。
 もうわざとやってるだろ? と問い掛けたくなる応酬。
 もはや誰もこのアホアホ会話に突っ込む者はいない。

「チッ。わーってる。冗談だ。にしてもなんで今の時期にバーベキューなんだ? 時期的にも少し早くねーか?」

「この馬鹿がどうしてもというので」

「ど、どーもー」

「頭の中がぱっぱらぴーな奴の考えそうなこったな」

 あんたもバーベキューやるって考えてなかったか?

「それにことみの誕生日祝いを兼ねて、一緒にやろうかと思っています」

 杏のそんな言葉を耳にした古河の親父は、口元に悪巧みを思い付いたような……好意的に見れば無邪気な笑みを浮かべた。
 
「なるほどな……よし。任せておけ」

「えっ?」

「俺様がその誕生日バースデーパーティーをプロデュースしてやると言ったんだ」

「マジ?」

 なんかあまり嬉しくないんだが。

「サプライズハンターと呼ばれた俺様が、あの巨乳少女をプロデュースしてやる」

 なんか言葉だけ抜き出すとエロいな。
 というかサプライズをハントって、サプライズを潰すってことか?
 いや、よく分からないけど。

「巨乳がどうかしたんですか?」

「お母さん!」

 さすがに騒がしくしすぎたのだろうか、古河の母親が今度は顔を出した。

「いや、何でもないぞ。早苗」

「でも今巨乳って言葉が──」
「きょうにゅうーよーくの株価はどーなってるんだろーなー!?」

 わざとらしく新聞を広げて見せる古河の親父。

「秋生さん……」

 ……さすがにこれで誤魔化せないと思うぞ?
 俺たちは黙ってその様子を伺う。
 というより、呆れているといった方が正確かもしれない。

「難しいことをやってるんですねっ!」

 あー早く終わらないかなーこの茶番。

  
 
      ◇      ◇



「準備は出来たな?」

「うーっす」

「朋也、しっかりしなさいよ!?」

「分かってるって……」

 ゴールデンウィークが始まり三日目。
 予定通りこの日に出かけた俺たちは、とある山のふもとに来ていた。
 場所は完全に古河の親父に任せていたので分からない。

「それにしても……いい天気になって良かったー!」

「本当だねー」

「肉が美味しく食べられそうだな」

「いいねー! おっと、考えたらヨダレが……」

「お前ら男に食わせる肉はねぇぞ」

「マジッスか!?」

「秋生さん?」

「……チッ。冗談だ。コゲ肉くらいは食わせてやらぁ」

「バーベキュー楽しみなの」

「そ、そうですね!」
 
 若干挙動不審な奴が一名いるが、きっと肝心なことは口を滑らせないだろう。
 信じているぞ。古河。

「それじゃーとっとと始めるか!」

「それでは、合図はわたしがやりますね! 皆さん位置についてくださーい! それではいきます! よーい…………スタート!」

 古河の母親の合図の下、俺を含めた四人、ことみ、椋、古河はひとまとまりになって山道を歩き出した。

「負けられませんね!」

「うん、一番に辿り着くの。そしたらお肉いっぱいなの」

「そうですね、わたしたちが力を合わせればきっと大丈夫です! 頑張りましょう!」

 そんな会話を背後に聞きながら、俺は先を見上げた。
 白い雲が広がる空。瑞々しい新緑が、鮮やかに色を濃くしている木々。それらが密集している森の道を、俺たちは歩いて行くのだ。
 少し歩いてから後ろを振り返ってみると、古河の親父が運転してきたバンはもう見えない。
 俺の少し後を楽しそうに喋りながら歩く三人を見て、俺は一つため息を吐いた。

『──こういうサプライズはどうだ?』

 古河家を訪問した後に夕飯をご馳走になった時、それが提案された。
 古河の親父にしては、わりとまともなサプライズで、ほぼ満場一致で決まった。
 それは──

「山道を歩くなんて、初めてです」

「わたしもです……目的地まで行けるでしょうか……?」

「でも、渚ちゃんのお父さんが動いた後のお肉は格別だって言ってたから、頑張るの。それに朋也くんもいるから」

 俺がことみとその他を引き連れて山を登り、別働隊の杏達が先にバーベキュー場に行きサプライズパーティーの準備をするというもの。
 名目は俺チーム対杏チーム。
 どちらが早く目的地につけるかという勝負をするということになっている。
 というわけで、俺たちが山道に入ってから、他のメンバーはすぐに車で目的地へと向かっているはずだ。
 山道といっても、登山というようなレベルではなく、舗装された遊歩道を歩くようなものだ。
 それでも俺たちが登り切るまでに三時間はかかるだろうと見られている。
 逆を言えば、俺は三時間以上かけてこの山を登らねばならない。以内ではだめなのだ。
 結局プレゼントは、ブックカバーやらカバンやら服やらと無難なものを買った。
 あとは渡すためのシチュエーションでカバーをするということで、なんとか意見をまとめることが出来た。
 なので失敗は許されない。
 そして今回、俺がしなければならないことは──
 
「あの蝶々、珍しいの」

「ことみちゃん、道から外れると危ないですよー!」

「大丈夫、分かってるの」

 興味津々といったように、あちこちに動きまわることみを見失わないようにして、ゴールにたどり着かせることだった。







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