第1話  奇跡の跡に



──キーンコーンカーンコーン


昼休みの開始の合図であるチャイムが、スピーカーから流れ出す。

同時に、教室がざわめき始めた。

先生もそれを分かってか、黒板に書いている文字が途中であったが、生徒の方に向き直り


「では、今日はこれまでにするか」


そう言って、先生は手に持っているノートを閉じる。

その動作で、教室のあちらこちらからため息が聞こえた。


号令をかけて先生が去っていくと、たちまちに教室に喧騒が広がった。


「祐一、お昼だよ」


そんな中、先ほどまでうつらうつらと、船を漕いでいた筈の名雪が、弾んだ声で祐一に声をかけてきた。

毎回そう言って、祐一に声をかけるのが、彼女の日課になっているようだった。


「あぁ、そうだな」


祐一は、名雪に軽く応えると、席を立ち、


「じゃぁ、先に行ってるから」


そう言って、教室を後にした。



季節は春。桜が咲き乱れ、白一色で覆われていた中庭が、桃色一色に染まる4月。

祐一たちは全員、無事に3年生にあがった。

しかし、栞はやはり、留年してもう1回、1年生をやることになった。

それでも、二人は笑いあって学校生活を楽しんでいた。もちろん、周りにいる人たちも一緒に……。


中庭に着くと、レジャーシートを広げた栞が、座って待っていた。

教室を一番最初に出た祐一は、やはり最初に栞の元にたどり着いた。


「こんにちわ。祐一さん」

「よう。毎日精が出るな」

「はいっ! 毎日が楽しいです♪」

「そうか。それはよかったな」


そんなちぐはぐな会話をしていると


「よくそんな会話で話が続くわね」

「そう? 私は楽しそうで良いと思うけど」

「こうしてはたから見ると、やっぱり犯罪の匂いが……」


三者三様の感想を口にし、香里、名雪、北川が背後に集まっていた。


「さ、早く準備しましょ。時間がもったいないわ」

「あ、みなさん、どうぞお座りください」

「ありがとう、栞ちゃん」

「いや〜栞ちゃんはいつみても可愛いね〜!」

「お前さっき犯罪がどうとか言っていなかったか?」


そんな実のない会話をしながら、週に一回みんなで昼食を食べることが、4月に入った彼、彼女らの日課であった。








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〜あとがき〜
どうも。TKOです。

久々の更新です。

正直なところAUGUSTの夜明け前より瑠璃色なのエステルの短編小説を書くか、この栞の短編小説を書くかで悩みました。

とりあえず栞の短編小説を書いてみたいと思います。

今回はほのぼのとした雰囲気で楽しんでいただけたらと思います。

それでは。


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