第2話  姉妹




祐一が夕飯の買い物を頼まれ、商店街に出かけたある日のこと。

目的の食材を入手し、夕焼けに染まる商店街を歩いていたところ、背後から声をかけられた。


「祐一さん!」


振り返ると、そこには栞が笑顔で手を振って立っていた。

その横には香里もいる。

二人とも私服を着ていて、右手にはそろって紙袋を持っていた。


「どうしたんですか? こんな時間に」


栞の問いかけに、祐一は手に持っているスーパーのビニール袋を、得意気に持ち上げた。


「そんなの見れば分かるわよ。どうして名雪じゃなくて、相沢君が買い物をしてるのよ」


香里の声に反応して、祐一は視線を香里に移した。


「失礼な。俺だってたまには買い物くらい手伝うさ」

「ふーん……」


そう言って香里は祐一の顔を訝しげに伺い見る。

その口元は、どこかいたずらめいているようだった。


「なんだ? じっと見て」

「罰ゲーム?」

「心優しい俺が、買い物をしているのがそんなに珍しいか?」

「珍しいを通り越して……見せ物?」

「どういう意味だ、コラ」

「言葉どおりよ」

「祐一さん、お姉ちゃんをいじめちゃダメですよ!」


教室での香里との日常的な会話を聞いて、栞が香里を庇う様に、祐一の前に立ちはだかる。

その様子を見て、祐一と……香里までもがキョトン、と固まった。

そして、二人は栞の的外れな行動を見て同時に吹き出し、笑い始めた。


「えっ? あ、あれ?」


栞は二人の顔を交互に見合わせ、おろおろとしている事しかできなかった。





ひとしきり笑い終えた祐一は


「ごめんな」


そう言って、栞の頭に手を乗せ、優しく撫でた。


「まったく」


香里もようやく笑いが収まったらしく、仕方ないといった表情で肩をすくめ、歩き出した。


「もう行くのか?」


祐一は、香里の背に言葉を投げかける。


「そうするわ。栞、気をつけて帰って来なさいよ」


背を向けて、栞にそう言い放つと、香里の姿は、商店街の中へと消えていった。






商店街に残された祐一と栞は、とりあえず百花屋に入って一息つくことにした。


「それで、どうしてさっきは笑ってたんですか!?」


先ほど笑われたのが納得いかない栞は、祐一に問いかけた。


「ん、いや。栞は可愛いなって」

「あ、ありがとうございます……」


思わぬ祐一の言葉に、栞は頬を染めた。

しかし、すぐにごまかされていると感じた栞は


「話をはぐらかさないで下さい!」


そう言って再び、祐一に疑問をぶつけるのであった。

そんなやり取りを数回続けたとき、栞の横の椅子から紙袋が滑り落ちた。


「そう言えば栞は二人で何を買ってたんだ?」


祐一は、慌てて紙袋を拾おうとしている栞に問いかけてみた。


「お姉ちゃんと一緒に洋服を買ったんです」

「へぇ〜お揃いか?」

「はい。お揃いです」


屈託のない笑みで栞がそう答えると、やはり祐一は笑ってしまう。


「あ、また笑いましたね!?」


そう言って栞は拗ねた。


「本当に栞はお姉ちゃんが大好きなんだな」

「はい。とっても綺麗で、優しくて、自慢のお姉ちゃんです」


しかし、香里の話題になると、途端に笑顔になる栞を見て、祐一はつられて笑顔になる。


──栞って誰?


かつては香里に拒絶されていた栞。

今ではお揃いの服まで買うようになっている。

そんな栞を見ているのが微笑ましく、そして幸せそうで祐一は嬉しく感じた。


「う〜。そんなに笑う人、嫌いです」


馬鹿にしているのだと思ったのだろうか、栞はまた拗ねてしまった。


「栞」

「つーん」


祐一の呼びかけにも反応しなくなった……わけではなく、ちゃんと言葉に出している。

そんな栞の態度が可愛らしく、祐一は優しく栞の頭を撫でた。


「今度の休みに遊びにでかけようか」


オレンジ色に染まる喫茶店の中で、祐一と栞は小さな約束を交わした。












<< 第1話へ 小説置き場へ戻る 第3話へ >>




〜あとがき〜

今回は栞のSSはゆったりとしたペースでほのぼのやって行きたいと思います。

そしてこの話はメインの栞だけではなく周りの人たちも色々出していきたいなぁ〜とか思っていたり。

どういうシチュエーションで登場させるかは未定ですが、楽しみにしていただけたらと思います。


それでは。






 感想や誤字脱字等がございましたら、掲示板または作者宛てのメールなどで報告お願いします。

掲示板へ